熊鈴の音

Posted: 2016年12月3日 カテゴリー: 登山
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たまにはギター以外の話題を。

10月に北アルプスに行ったときに予定していたコースがこなせずに悔しい思いをしたので最近は奥多摩へ「トレーニング登山」に出かけています。11月中に3度ほど足を運んでいるのですが、これは数日前の山行のお話。ちょっとダークな話で、観光地化している奥多摩の迷惑にならないよう山名などは割愛します。

その日は朝暗いうちに家を出発、JR武蔵五日市駅からバスで登山口へ向かいました。バスが駅を出たときは数名の登山者と地元の人が乗っていましたが、僕が下りるバス停につくまでにほとんど降りてしまい、残った乗客は僕と他一名。そして、その人は僕と同じバス停で下車。どうやら同じコースを歩くのが目的のようです。空になったバスが終点へ向かって走り去るのを見送っていると、もう一人の登山者はもういなくなっていました。僕はバス停近くのトイレで用を済ませ、準備運動を行い、さらに話しかけてきた地元の人と少しお話してから出発。バスを降りてから20分くらいが経過してました。目的の山頂まで標高差1,100mほど、コースタイム3時間半ほどのコースです。

今の季節、雑木林は落ち葉が敷き詰められています。

今の季節、雑木林は落ち葉が敷き詰められています。

山へ足を踏み入れ登ってゆくと、檜の植林帯と雑木林が交互に現れますが、この時期、雑木林は枯葉が敷き詰められた道になります。かさかさと枯れ葉を踏みしめて歩くのは心地好く、面白いように標高が稼げました。

尾根筋をどんどん標高を上げる。

尾根筋をどんどん標高を上げる。

バス停で見失った人はだいぶ先を歩いているのか、気配は感じません。降り積もった落ち葉の上に人が歩いた新しい形跡がありました。きっとさっきの人だろうと思いながら歩いていると、背後から熊鈴の音が「チリーン」と聞こえてきました。「熊鈴」というのは熊に遭遇しないように、登山者や山仕事の人が身に着ける鈴。鈴の音を警戒して熊が離れて行くというものです。今の時期はほとんどの熊が冬眠態勢になっていてもう不要かと思いますが、奥多摩は登山初心者も多い地区で付けている人は珍しくありません。山では自分よりペースが早い登山者に道を譲るのがマナー、一応後ろを振り返ってみました。でも誰も見えません。見通しが良くない場所ですし、山で一人で歩いていると五感が敏感になって結構遠くからの熊鈴も聞こえるので、「まだ離れてるかな」と考えて、とりあえず先に進みます。

振り返っても誰も居ません。

振り返っても誰も居ません。

普段の登山では「1時間歩いたら5~10分休憩」といったパターンを守って登ります。ペースを乱すとバテやすく、急ぎ過ぎてもだらだらしすぎてもダメ。でも今回はトレーニング目的での山行でばてるくらいがちょうど良いと思って目的の山頂までは休憩なしで一気に登り切りました。これが失敗でした。

山頂に到着。数時前の雪がまだ残っていました。(山の名前は架空のものです。)

山頂に到着。数時前の雪がまだ残っていました。(山の名前は架空のものです。)

コースタイム3時間30分ほどの登りを2時間40分ほどで登り切り目的の山頂に到着。途中何度か熊鈴をきいたのですが誰かが追いついてくることなく山頂に。さすがに山頂目前まで来るとかなり疲れを感じ、山頂では長めに休憩をとることに。この山は奥多摩でもメジャーな山で僕が到着した時に一名、休憩している時にもう一名が山頂に来ました。バス停で一緒だった人は見当たりませんが、ここまで来ると他の山や登山口への道も多く合流しているのでそのどちらかへ行ったか、かなりの健脚でだいぶ先を行っているのでしょう。

山頂で一緒だった二人は僕よりはだいぶ年上でした。先に来ていた一人は僕が到着してからすぐに下りていきました。あとから来た人と会話することもなく僕も少し長めの休憩を終えて下山開始。下山はいくつかのピークを経て来たところとは別の駅へ下りる計画です。

再び落ち葉を踏みしながら歩きます。

再び落ち葉を踏みしながら歩きます。

「失敗」というのは、ここまでで必要以上にバテてしまっていたこと。山頂を後にしてからは足が重くなってペースも落ちました。コースタイムよりも10分ほど余計にかかって一つ目のピークまで来たところで休憩をいれました。登りのハイペースが嘘のようなスローペース。計画では下山地に到着するのが16:00頃の予定。今の季節15時過ぎれば森の中は暗くなってきます。17時になれば森の中は夜です。

行動食の羊羹をほおばりながら地図とにらめっこしているとまた熊鈴の音が聞こえてきました。この時もそれほど気にはなりませんでしたが、一応周囲を見て他の登山者がいないか確認。姿は見えませんが、音ははっきりしていたので近くにいるはず。

周囲には誰も居ません。

周囲には誰も居ません。

このときはまだ「近くに登山者かが来ている」と思っていました。冬に差しかかった季節の平日とはいえ都内から近く標高も低い山です。さっき山頂で他の登山者もいましたし何人かは今この山を歩いていて不思議はありません。

休憩を切り上げて立ち上がるとさっきまでより足の疲れがこたえました。がまんして足を踏み出しすとまた「ちりん」と背後から熊鈴の音が・・・

振り返ってもやっぱり誰も居ません。

振り返ってもやっぱり誰も居ません。

あたりを見回しても誰も居ません。森の中は見通しが悪いから近くにいても見えないこともあります。だから「大方、さっき山頂で一人で残った人が下りてきて追いついてきているのだろう」と思い、やはり気にせずに先に進みました。

でも少し歩いてからふと思い出しました。さっき山頂で休憩しているときに後から登ってきた人は熊鈴は付けていませんでした。つけていたら音でわかります。僕より先に山頂に来ていた人もそうだ。つまり今後ろを歩いている人はさっき山頂であった人ではないはず。他に登ってきた人がいたらここまで降りるまでにすれ違うはず…。

などと考えながら重い脚を無理やり前に出して下山道を進みました。

先ほどの休憩から1時間ほど歩いてまた休憩。標高はだいぶ下げてきていますが、コース上にはまだいくつかの登り返しと、鎖場、急な岩場の下り、そして仕上げに180段近い急な下り階段があります。ここまででコースタイムを30分以上遅れていましたが、下りを急ぐと膝を傷めやすく、そうなると一層ペースが落ちるのがわかっています。なので、無理のないペースで行くと決めると同時に、日没までに山を出られないことも覚悟しました。

地図を眺めながら人里につく時刻を計算し直しているとまた「ちりん、ちりーん」と熊鈴の音が耳に届きます。音の具合から距離感も同じくらいです。

どうもおかしい。僕は大分バテていてかなりスローペースで歩いているのだから、もうとっくに追いつかれてもいいところだ。

この時、時刻は15:00頃。今の時期、他のコースからこのコースに上がってくる人はもういない時刻だろう。前述の通りまだ気を抜けないアップダウンが続くし、森の中で暗くなると視界は効かず危険度は増す。下手をするとビバークなんてことにもなりかねない。だから考えられるのは僕と同じようなコースで歩いている登山者ではないか…。

こちらとしては急げる状態じゃない。後ろから追い立てられるようなのは良くない・・・と考え、熊鈴の主に先に行ってもらうべくその人が現れるのをしばし待った。

ところが、5分くらい待っても現れない。仕方なく出発。そして少し進むとまた背後から「ちりん・・・」と熊鈴が聞こえてきます。

「わざとやってんのかなぁ?」「人に会うのがいやなのかなぁ?」などと考えつつ、追いつかれるプレッシャーも抱えて重い気分で歩みを進めます。

何度目かの檜の植林に入りました。檜の植林帯では雑木林に比べてやけに不自然にまっすぐな檜以外、雑草も大して生えていません。「森」とは言っても雑木林のような生命の躍動感は乏しく、昼間でも薄暗いので今の時刻はいっそう暗くなり不気味な雰囲気です。そうしたところでも時々「ちりーん」と鈴の音が追ってくるのですが、さすがに気味が悪くなってきました。時刻は15時30分ころ。遠くはあまりはっきり見えなくなっていましたが、時々周囲を確認せずにいられません。でもやはり誰もいませんでした。

大分暗くなってきました。

大分暗くなってきました。

いくつかの小さなピークを登り返しつつ、木の根が複雑に絡んだ急な道を足を取られないようゆっくり下り続け、大分標高を下げてきました。まだ、ゴールは先ですが、そろそろ遠くから麓の国道を走る車の音が聞こえてきていました。人の気配に安心感を得ましたが、相変わらず、たびたび「ちりーん」と聞こえてきて不気味さも感じていました。

16時過ぎごろ、最後のチェックポイントともいえる神社の鳥居に到着。ここから一登りして、あとは最後の下りを残すのみ。もうあたりは大分暗くなってきていて見通しも悪くなっていました。ヘッドランプを出した方が万全ですが、ゴールはもうすぐ。立ち止まらずに一気に進むことにして、鳥居をくぐり最後の登りに取りつきました。登りといってもせいぜい数十メートル登る程度、それよりもその後に控える長い下り階段の方が大変です。

気合いを入れ一気に最後の登りを片付けました。登り切ったところは神社。人はいません。そう言えば鳥居を過ぎてからは熊鈴は聞いていませんでした。立ち止まって耳を澄ましてみましたがやはり聞こえません。少し安心して最後の下りに取り掛かります。

足が問題なければあと10分といったところだと思いますが、ここにきて左足の膝が痛み出しました。下りの負担を考えると一層ペースを落とさざる得ません。しかたなく左足をかばうようにしてゆっくりゆっくり下りました。

森の中は結構暗くなってきていました。

森の中は結構暗くなっています。

神社があったところからほんの少し行くったところで自分より少し先に登山者らしき人影を発見。かなり暗くなっていてはっきりとはわかりませんが、小さめのデイパックを背負ったおじいさんのようです。立ち止まってこちらを見ています。この神社だけに登ってきて引き返すところでしょうか。

ここからは急な道で暗くなっていて危険なことも考えると年配の方をせかしては悪いと思い、手で「先に行ってください」と合図を出して僕はその場に立ち止まりました。おじいさんは僕から視線を外すとゆっくり下ってゆきました。

そうこうしているうちにさらに暗くなります。さすがにおじいさんが見えなくなるまで待っているわけにもいかず、僕もゆっくり下りを再開。しばらく行くと、最後の難所の180段あまりの階段に到着。かなり急で高度感があり、下りであたりも暗くなっているとなるとかなり怖い道のりです。したの方を見ると先ほどのおじいさんがまだ階段の中腹にいました。緊張を強いられるこの階段で、やはりおじいさんをせかさないようにと思い、はやくゴールに着きたいですが階段の一番上で腰を下ろしておじいさんが下り終えるのを待ちました。

階段の途中のおじいさんはなんどか振り返ってこちらを見ていましたが、やがて階段を下り終え見えなくなりました。あたりはどんどん暗くなっています。左ひざをかばいつつ僕も数分かけて階段を下り切りました。

振り返って見上げた階段。

振り返って見上げた階段。オートで撮影したので実際よりだいぶ明るく映っています。

もうゴールは目とはなの先ですが、階段を下りきるといよいよ膝が痛くなっていたので近くに腰を下ろして最後の休憩を入れました。今日歩いたところを見返そうと地図を取り出しましたが、もう地図が読めない位の暗さでした。おじいさんを見つけてからすっかり「熊鈴の人」のことは忘れていたのですが、暗い中で森やさっきの階段を見ているとそれを思い出し、また気になり出しました。「もし自分の後ろを自分と同じようなペースで歩いていたのなら階段の上に現れるかも」とも思い、休憩している間にその人が現れないか、時々階段の方を見やりました。暗くてはっきりとは見えなくなっていましたが、結局誰の姿も、気配も現れず。

最後の道のりをかなりゆっくり歩いてゴールしたのは17:00を過ぎていました。

近くの温泉で汗を流してから最寄りの青梅線の駅まで歩き電車に乗り込みました。

さて、結局「熊鈴の人」はどうしたのでしょうか。一人で山を歩くと五感が鋭くなるものなので、ちょっとした空耳を過大に受け取ったのかもしれません。でもそれにしては結構近くに聴こえた感じでしたし、全部で13kmほどのコース中、10kmにわたる区間で聞こえ続けたのは(断続的ではありましたが)不自然な気がします。それに今日会った登山者は誰も当てはまらない感じで、他に登山者が追ってきていたとしたら、最初の山頂から下る途中ですれ違うか、あるいは僕が休憩していた時に追いついてきそうなものですが・・・最後のおじいさんは遅い時間に突然前に現れたのがちょっとビックリでしたが、鈴は付けていなかったですし、多分関係ないでしょう。暗くなる時間でちょっと不気味だったけど。

気になったので帰りの電車の中でネット検索してみると同じコースで不思議な体験をしたという記事が一つ見つかりました。その人は僕と同じように一人で歩いていたそうですが、突然先行者が視界に入ったものの、次の瞬間にいなくなってしまったそうです。僕より百倍不気味だぁ~。

一体なんだったんだろ~。

 

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